かい
             宮澤賢治

1
今はうざぎたちは、みんなみじかい茶色の着物きものです。

2
野原の草はきらきら光り、あちこちのかばの木は白い花をつけました。

3
実に野原はいいにおい一杯いつぱいです。

4
子兎こうさぎのホモイは、よろこんでぴんぴんおどりながらもうしました。
「ふん、いい匂だなあ。うまいぞ、うまいぞ、鈴蘭すずらんなんかまるでパリパリだ。」

5
風が来たので鈴蘭は、葉や花をたがいにぶっつけて、しゃりんしゃりんと鳴りました。

6
ホモイはもううれしくて、息もつかずにぴょんぴょん草の上をかけ出しました。

7
それからホモイは一寸ちよつと立ちどまって、うでを組んでほくほくしながら、
「まるでぼくは川の波の上で芸当げいとうをしているようだぞ。」といました。

8
本当にホモイは、いつか小さな流れの岸まで来てりました。

9
そこには冷たい水がこぼんこぼんと音をたて、底の砂がピカピカ光っています。

10
ホモイは一寸ちよつと頭を曲げて、
「この川を向うへ飛びえてやろうかな。なあにわけないさ。けれども川の向う側は、どうも草が悪いからね。」とひとりごとをいました。

11
すると不意ふいに流れのかみの方から、
「ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ、ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ。」とけたたましい声がして、うす黒いもじゃもじゃした鳥のような形のものが、ばたばたばたばたもがきながら、流れてまいりました。

12
ホモイは急いで岸にかけよって、じっと待ちかまえました。

13
流されるのは、たしかにせたひばりの子供です。ホモイはいきなり水の中に飛び込んで、前あしでしっかりそれをつかまえました。

14
するとそのひばりの子供は、いよいよびっくりして、黄色なくちばしを大きくあけて、まるでホモイのお耳もつんぼになるくらい鳴くのです。

15
ホモイはあわてて一生けん命、あとあしで水をけりました。そして「大丈夫だいじようぶさ、大丈夫さ。」と云いながら、その子の顔を見ますと、ホモイはぎょっとして危なく手をはなしそうになりました。それは顔中しわだらけで、くちばしが大きくて、おまけにどこかとかげに似ているのです。

16
けれどもこの強い兎の子は、決してその手をはなしませんでした。おそろしさに口をへの字にしながら、それをしっかりおさえて、高く水の上にさしあげたのです。

17
そして二人は、どんどん流されました。ホモイは二度ほど波をかぶったので、水を余程よほどみました。それでもその鳥の子ははなしませんでした。

18
すると丁度ちようど小流こながれの曲りかどに、一本の小さなやなぎえだが出て、水をピチャピチャたたいて居りました。ホモイはいきなりその枝に、青い皮の見えるくらい深くかみつきました。そして力一杯いつぱいにひばりの子を岸のやわらかな草の上に投げあげて、自分も一とびにはね上りました。

19
ひばりの子は草の上にたおれて、目を白くしてガタガタふるえています。

20
ホモイもつかれでよろよろしましたが、無理にこらえて、楊の白い花をむしって来て、ひばりの子にかぶせてやりました。ひばりの子はありがとうと云うようにその鼠色ねずみいろの顔をあげました。

21
ホモイはそれを見るとぞっとして、いきなり退きました。そして声をたてて逃げました。

22
その時、空からヒュウと矢のように降りて来たものがあります。ホモイは立ちどまって、ふりかえって見ると、それは母親のひばりでした。母親のひばりは、物も言えずにぶるぶるふるえながら、子供のひばりを強く強くいてやりました。

23
ホモイはもう大丈夫と思ったので、一目散いちもくさんにおとうさんのお家へ走って帰りました。

24
うさぎのおつかさんは、丁度、おうちで白い草のたばをそろえて居りましたが、ホモイを見てびっくりしました。そして
「おや、どうかしたのかい。大変顔色かおいろが悪いよ。」と云いながらたなから薬のはこをおろしました。
「おっかさん、僕ね、もじゃもじゃの鳥の子のおぼれるのを助けたんです。」とホモイが云いました。兎のおかあさんは箱から万能散まんのうさん一服いつぷく出してホモイにわたして、
「もじゃもじゃの鳥の子ってひばりかい。」とたずねました。

25
ホモイは薬を受けとって、
「多分ひばりでしょう。ああ頭がぐるぐるする。おつかさん。まわりが変に見えるよ。」といながら、そのままバッタリ倒れてしまいました。ひどい熱病ねつびようにかかったのです。

26
   

27
          ※

28
          ※

29
ホモイがおとうさんやおっかさんや、うさぎのお医者さんのおかげで、すっかりよくなったのは、鈴蘭すずらんにみんな青い実ができたころでした。

30
ホモイは、る雲のい静かなばん、はじめてうちから一寸ちよつと出て見ました。

31
南の空を、赤い星がしきりにななめに走りました。ホモイはうっとりそれを見とれました。すると不意に、空でブルルッとはねの音がして、二疋の小鳥がりてまいりました。

32
大きい方は、円い赤い光るものを大事そうに草におろして、恭々うやうやしく手をついて申しました。
「ホモイさま。あなたさまはわたくしども親子の大恩人おんじんでございます。」

33
ホモイは、その赤いものの光で、よくその顔を見て云いました。
「あなたがた先頃せんころのひばりさんですか。」

34
母親のひばりは、
「さようでございます。先日はまことにありがとうございました。せがれの命をお助け下さいましてまことにありがとう存じます。あなた様はそのために、ご病気にさえおなりになったとの事でございましたが、もうおよろしうございますか。」

35
親子のひばりは、沢山たくさんおじぎをしてまた申しました。
私共わたくしどもは毎日この辺を飛びめぐりまして、あなたさまの外へおなさいますのをお待ちいたして居りました。これは私どもの王からの贈物おくりものでございます。」といながら、ひばりはさっきの赤い光るものをホモイの前に出して、うすいうすいけむりのようなはんかちをきました。それはとちの実位あるまんまるの玉で、中では赤い火がちらちら燃えているのです。ひばりの母親が又申しました。
「これは貝の火という宝珠ほうじゆでございます。王さまのお言伝ことづてではあなた様のお手入れ次第しだいで、このたまはどんなにでも立派りつぱになると申します。どうかおおさめをねがいます。」

36
ホモイは笑って云いました。
「ひばりさん。僕はこんなものいりませんよ。持って行って下さい。大変きれいなもんですから、見るけで沢山です。見たくなったら又あなたの所へきましょう。」

37
ひばりが申しました。
「いいえ、それはどうかお納めをねがいます。私共わたくしどもの王からの贈物おくりものでございますから。おおさめ下さらないと、又私はせがれと二人で切腹せつぷくをしないとなりません。さ、せがれ。おいとまをして。さ。おじぎ。ごめん下さいませ。」

38
そしてひばりの親子は二三べん辞儀じぎをしてあわてて飛んで行ってしまいました。

39
ホモイは玉を取りあげて見ました。玉は赤や黄のほのおをあげてせわしくせわしくえているように見えますが、実はやはり冷たく美しくんでいるのです。目にあてて空にすかして見ると、もうほのおは無く、あまがわ奇麗きれいにすきとおっています。目からはなすと又ちらりちらり美しい火が燃え出します。

40
ホモイはそっと玉をささげて、おうちへ入りました。そしてすぐお父さんに見せました。するとうさぎのお父さんが玉を手にとって、目がねをはずしてよく調べてから申しました。
「これは有名な貝の火という宝物たからものだ。これは大変な玉だぞ。これをこのまま一生満足まんぞくに持っている事のできたものは今までに鳥に二人さかなに一人あっただけだという話だ。お前はよく気を付けて光をなくさないようにするんだぞ。」

41
ホモイが申しました。
「それは大丈夫ですよ。僕は決してなくしませんよ。そんなようなことはひばりも云っていました。僕は毎日百遍ひやつぺんずつ息をふきかけて百遍ずつ紅雀べにすずめの毛でみがいてやりましょう。」

42
兎のおっかさんも、玉を手にとってよくよくながめました。そして云いました。
「この玉は大変そんやすいという事です。けれども、又くなったわし大臣だいじんが待っていた時は、大噴火だいふんかがあって大臣が鳥の避難ひなんの為に、あちこちさしずをして歩いている間にこの玉が山程やまほどある石に打たれたり、まっかな溶岩ようがんに流されたりしても、一向きずもくもりもつかないでかえって前より美しくなったという話ですよ。」

43
兎のおとうさんが申しました。
「そうだ。それは名高いはなしだ。お前もきっとわしの大臣のような名高い人になるだろう。よく意地悪いじわるなんかしないように気を付けないといけないぞ。」

44
ホモイはつかれてねむくなりました。そして自分のお床にコロリと横になって云いました。
「大丈夫だよ。僕なんかきっと立派にやるよ。玉は僕持って寝るんだから下さい。」

45
兎のおっかさんは玉を渡しました。ホモイはそれをむねにあててすぐねむってしまいました。

46
そのばんの夢の奇麗きれいなことは、黄や緑の火が空で燃えたり、野原が一面黄金きんの草に変ったり、沢山の小さな風車かざぐるまはちのようにかすかにうなって空中を飛んであるいたり、仁義じんぎをそなえたわしの大臣が、銀色のマントをきらきら波立てて野原を見まわったり、ホモイはうれしさに何遍なんべんも、
「ホウ。やってるぞ、やってるぞ。」と声をあげた位です。

47
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       ※

49
あくる朝、ホモイは七時ころ目をさまして、まず第一に玉を見ました。玉の美しいことは、昨夜ゆうべよりもっとです。ホモイは玉をのぞいて、ひとりごとを云いました。
「見える、見える。あそこが噴火口ふんかこうだ。そら火をふいた。ふいたぞ。面白おもしろいな。まるで花火だ。おや、おや、おや、火がもくもくいている。二つにわかれた。奇麗きれいだな。火花だ。火花だ。まるでいなずまだ。そら流れ出したぞ。すっかり黄金きん色になってしまった。うまいぞうまいぞ。そら又火をふいた。」

50
おとうさんはもう外へ出ていました。おっかさんがにこにこして、おいしい白い草の根や青いばらの実を持って来て云いました。
「さあ早くおかおを洗って、今日は少し運動をするんですよ。どれ一寸ちよつとお見せ。まあ本当に奇麗きれいだね。お前がおかおを洗っている間おっかさんは見ていてもいいかい。」

51
ホモイが云いました。
「いいとも。これはうちの宝物なんだから、おっかさんのだよ。」そしてホモイは立ってうちぐち鈴蘭すずらんの葉さきから、大粒おおつぶつゆを六つほどってすっかりお顔を洗いました。

52
ホモイはごはんがすんでから、玉へ百遍ひやつぺんいきをふきかけそれから百遍紅雀べにすずめの毛でみがきました。そして大切に紅雀のむな毛につつんで、今までうさぎの遠めがねを入れて置いた瑪瑙めのうの箱にしまっておかあさんにあずけました。そして外に出ました。

53
風が吹いて草の露がバラバラとこぼれます。つりがねそうが朝のかね
「カン、カン、カンカエコ、カンコカンコカン。」
と鳴らしています。ホモイはぴょんぴょんんでかばの木の下にきました。

54
すると向うから、年をった野馬のうまがやってまいりました。ホモイは少しこわくなって戻ろうとしますと馬は丁寧ていねいにおじぎをして云いました。
「あなたはホモイさまでござりますか。こんど貝の火がお前さまに参られましたそうで実に祝着しゆうちやくに存じまする。あの玉がこの前けものの方に参りましてからもう千二百年たっていると申しまする。いや、実に私めも今朝そのおはなしをうけたまわりまして涙を流してござります。」馬はボロボロ泣きだしました。ホモイはあきれていましたが、馬があんまり泣くものですから、ついつりこまれて一寸ちよつと鼻がせらせらしました。馬は風呂敷ふろしきぐらいある浅黄あさぎのはんかちを出して涙をふいて申しました。
「あなた様は私共の恩人おんじんでございます。どうかくれぐれもおからだを大事になされて下されませ。」そして馬は丁寧ていねいにおじぎをして向うへ歩いてきました。

55
ホモイは何だかうれしいようなおかしいような気がしてぼんやり考えながら、にわとこの木のかげきました。するとそこに若い二疋の栗鼠りすが、仲よく白いおもちを食べて居りましたがホモイの来たのを見ると、びっくりして立ちあがって急いできもののえりを直し、目を白黒させて餅をのみ込もうとしたりしました。

56
ホモイはいつものように、
「りすさん。お早う。」とあいさつをしましたが、りすは二疋共ひきともかたくなってしまって、一向ことばも出ませんでした。ホモイはあわてて
「りすさん。今日も一諸いつしよにどこか遊びにきませんか。」と云いますと、りすは飛んでもないと云うように目をまんまろにして顔を見合せて、それからいきなり向うを向いて一生けん命逃げて行ってしまいました。

57
ホモイはあきれてしまいました。そして顔色を変えてうちへ戻って来て
「おっかさん。何だかみんな変な工合ぐあいですよ。りすさんなんか、もう僕を仲間はずれにしましたよ。」と云いますと兎のおっかさんが笑って答えました。
「それはそうですよ。お前はもう立派りつぱな人になったんだから、りすなんかはずかしいのです。ですからよく気をつけてあとで笑われないようにするんですよ。」

58
ホモイが云いました。
「おっかさん。それは大丈夫だいじようぶですよ。そんなら僕はもう大将になったんですか。」

59
おっかさんもうれしそうに
「まあそうです。」と申しました。

60
ホモイがよろこんでおどりあがりました。
「うまいぞ。うまいぞ。もうみんな僕のてしたなんだ。きつねなんかもうこわくも何ともないや。おっかさん。僕ね、りすさんを小将しようしようにするよ。馬はね、馬は大佐たいさにしてやろうと思うんです。」

61
おっかさんが笑いながら、
「そうだね、けれどもあんまりいばるんじゃありませんよ。」と申しました。ホモイは
「大丈夫ですよ。おっかさん、僕一寸ちよつと外へ行って来ます。」と云ったままぴょんと野原へ飛び出しました。するとすぐ目の前を意地悪いじわるきつねが風のように走ってきます。

62
ホモイはぶるぶるふるえながら思い切って叫んで見ました。
「待て。狐。僕は大将たいしようだぞ。」

63
狐がびっくりしてふり向いて顔色を変えて申しました。
「へい。ぞんじてります。へい、へい。何かご用でございますか。」

64
ホモイができる位威勢いせいよく云いました。
「お前はずいぶん僕をいじめたな。今度は僕のけらいだぞ。」

65
狐は卒倒そつとうしそうになって、頭に手をあげて答えました。
「へいお申し訳けもございません。どうかおゆるしをねがいます。」

66
ホモイはうれしさにわくわくしました。
特別とくべつに許してやろう。お前を少尉しよういにする。よく働いてれ。」

67
きつねよろこんで四遍しへんばかりまわりました。
「へいへい。ありがとう存じます。どんな事でもいたします。少しとうもろこしをぬすんで参りましょうか。」

68
ホモイが申しました。
「いや、それは悪いことだ。そんなことをしてはならん。」

69
狐は頭をいて申しました。
「へいへい。これからは決していたしません。何でもおいいつけを待っていたします。」

70
ホモイは云いました。
「そうだ。用があったら呼ぶからあっちへ行っておいで。」

71
狐はくるくるまわっておじぎをして向うへ行ってしまいました。

72
ホモイはうれしくてたまりません。野原を行ったり来たりひとりごとを云ったり、笑ったりさまざまの楽しいことを考えているうちに、もうお日様がくだけたかがみのようにかばの木の向うに落ちましたので、ホモイも急いでおうちに帰りました。

73
うさぎのおとうさまももう帰っていて、その晩は様々のご馳走ちそうがありました。ホモイはその晩も美しい夢を見ました。

74
       ※

75
       ※

76
次の日ホモイは、お母さんに云いつけられてざるを持って野原に出て、鈴蘭すずらんの実を集めながらひとりごとを云いました。
「ふん、大将が鈴蘭の実を集めるなんておかしいや。たれかに見つけられたらきっと笑われるばかりだ。狐が来るといいがなあ。」

77
すると足の下が何だかもくもくしました。見るとむぐらが土をくぐってだんだん向うへ行こうとします。ホモイは叫びました。
「むぐら、むぐら、むぐらもち、お前は僕のえらくなったことを知ってるかい。」

78
むぐらが土の中で云いました。
「ホモイさんでいらっしゃいますか。よく存じて居ります。」

79
ホモイは大威張おおいばりで云いました。
「そうか。そんならいいがね。僕、お前を軍曹ぐんそうにするよ。その代り少し働いてれないかい。」

80
むぐらはびくびくしてたずねました。
「へいどんなことでございますか。」

81
ホモイがいきなり
「鈴蘭の実を集めておくれ。」と云いました。

82
むぐらは土の中で冷汗ひやあせをたらして頭をかきながら、
「さあまことに恐れ入りますが私は明るい所の仕事は一向いつこう無調法ぶちようほうでございます。」と云いました。

83
ホモイは怒ってしまって、
「そうかい。そんならいいよ。たのまないからあとで見ておいで。ひどいよ。」と叫びました。

84
むぐらは
「どうかごめんをねがいます。私は長くお日様を見ますと死んでしまいますので。」としきりにおわびをします。

85
ホモイは足をばたばたして
「いいよ。もういいよ。だまっておいで。」と云いました。

86
その時向うのにわとこの陰からりすが五ひきちょろちょろ出て参りました。そしてホモイの前にぴょこぴょこ頭を下げて申しました。
「ホモイさま、どうか私共に鈴蘭の実をおらせ下さいませ。」ホモイが
「いいとも。さあやって呉れ。お前たちはみんな僕の少将だよ。」

87
りすがきゃっきゃっよろこんで仕事にかかりました。

88
この時向うから仔馬こうまが六疋走って来てホモイの前にとまりました。その中の一番大きなのが「ホモイ様。私共にも何かおいいつけをねがいます。」と申しました。ホモイはすっかり悦んで
「いいとも。お前たちはみんな僕の大佐たいさにする。僕が呼んだら、きっとかけて来ておくれ。」といいました。仔馬もよろこんではねあがりました。

89
むぐらが土の中で泣きながら申しました。
「ホモイさま、どうか私にもできるようなことをおいいつけ下さい。きっと立派にいたしますから。」

90
ホモイはまだおこっていましたので、
「お前なんかいらないよ。今に狐が来たらお前たちの仲間をみんなひどい目にあわしてやるよ。見ておいで。」と足ぶみをして云いました。

91
土の中ではひっそりとして声もなくなりました。

92
それからりすは、夕方まで鈴蘭すずらんの実を沢山たくさん集めて、大騒おおさわぎをしてホモイのうちへ運びました。

93
おっかさんが、そのさわぎにびっくりして出て見て云いました。
「おや、どうしたの、りすさん。」

94
ホモイが横から口を出して
「おっかさん。僕の腕前うでまえをごらん。まだまだ僕はどんな事でもできるんですよ。」と云いました。うさぎのおかあさんは返事もなくだまって考えて居りました。

95
すると丁度ちようど兎のお父さんが戻って来てその景色けしきをじっと見てから申しました。
「ホモイ、お前は少し熱がありはしないか。むぐらを大変おどしたそうだな。むぐらの家ではもうみんなきちがいのようになって泣いてるよ。それにこんなに沢山たくさんの実を全体ぜんたい誰がたべるのだ。」

96
ホモイは泣きだしました。りすはしばらく気のどくそうに立って見て居りましたがとうとうこそこそみんなげてしまいました。

97
兎のお父さんが又申しました。
「お前はもうだめだ。貝の火を見てごらん。きっと曇ってしまっているから。」

98
兎のおっかさんまでが泣いて、前かけで涙をそっとぬぐいながらあの美しい玉のはいった瑪瑙めのうはこ戸棚とだなから取り出しました。

99
兎のおとうさんははこを受けとってふたをひらいておどろきました。

100
たま一昨日おとといの晩よりももっともっと赤くもっともっと速く燃えているのです。

101
みんなはうっとりみとれてしまいました。兎のおとうさんはだまって玉をホモイに渡してご飯を食べはじめました。ホモイもいつか涙がかわきみんなはまた気持よく笑い出し一諸いつしよにご飯をたべてやすみました。

102
         ※

103
         ※

104
次の朝早くホモイはまた野原に出ました。

105
今日もよいお天気です。けれども実をとられた鈴蘭すずらんは、もう前のようにしゃりんしゃりんと葉を鳴らしませんでした。

106
向うの向うの青い野原のはずれから、狐が一生いつしようけんめいに走って来て、ホモイの前にとまって、
「ホモイさん。昨日りすに鈴蘭すずらんの実を集めさせたそうですね。どうです。今日は私がいいものを見附みつけて来てあげましょう。それは黄色でね、もくもくしてね、失敬しつけいですが、ホモイさん、あなたなんかまだ見たこともないやつですぜ。それから、昨日むぐらにばちをかけるとっしゃったそうですね。あいつは元来がんらい横着おうちやくだから、川の中へでも追いこんでやりましょう。」と云いました。

107
ホモイは
「むぐらは許しておやりよ。僕もう今朝けさゆるしたよ。けれどそのおいしいたべものは少しばかり持って来てごらん。」と云いました。
合点がつてん、合点。十分間じつぷんかんだけお待ちなさい。十分間ですぜ。」と云って狐はまるで風のように走ってきました。

108
ホモイはそこで高く叫びました。
「むぐら、むぐら、むぐらもち。もうお前は許してあげるよ。泣かなくてもいいよ。」土の中はしんとして居りました。

109
狐が又向うから走って来ました。そして
「さあおあがりなさい。これは天国てんごくの天ぷらというもんですぜ。最上等さいじようとうの所です。」と云いながらぬすんで来たかくパンを出しました。

110
ホモイは一寸ちよつとたべて見たら、実にどうもうまいのです。そこで狐に
「こんなものどの木に出来るのだい。」とたずねますと狐が横を向いて一つ「ヘン」と笑ってから申しました。
「台所という木ですよ。ダアイドコロという木ね。おいしかったら毎日持って来てあげましょう。」

111
ホモイが申しました。
「それではね毎日きっと三つずつ持って来ておくれ。ね。」

112
狐がいかにもよくのみこんだというように目をパチパチさせて云いました。
「へい。よろしうございます。その代りわたしとりをとるのを、あなたがとめてはいけませんよ。」
「いいとも」とホモイが申しました。

113
すると狐が
「それでは今日の分、もう二つ持って来ましょう。」と云いながら又風のように走ってきました。

114
ホモイはそれをおうちに持って行ってお父さんやお母さんにあげる時の事を考えて居ました。お父さんだって、こんな美味おいしいものは知らないだろう。僕はほんとうに孝行だなあ。

115
狐が角パンを二つくわいて来てホモイの前に置いて、急いで「さよなら」と云いながらもう走っていってしまいました。ホモイは
「狐は一体毎日何をしているんだろう。」とつぶやきながらおうちに帰りました。

116
今日はお父さんとお母さんとが、お家の前で鈴蘭の実を天日てんぴにほして居りました。

117
ホモイが
「お父さん。いいものを持って来ましたよ。あげましょうか。まあ一寸ちよつとたべてごらんなさい。」といながら角パンを出しました。

118
兎のお父さんはそれを受けとって眼鏡めがねを外して、よくよく調べてから云いました。
「お前はこんなものを狐にもらったな。これは盗んで来たもんだ。こんなものをおれは食べない。」そしておとうさんはも一つホモイのお母さんにあげようと持っていた分も、いきなり取りかえして自分のと一諸いつしよに土に投げつけてむちゃくちゃにふみにじってしまいました。

119
ホモイはわっと泣きだしました。兎のお母さんも一諸いつしよに泣きました。

120
お父さんがあちこち歩きながら、
「ホモイ、お前はもう駄目だめだ。玉を見てごらん。もうきっとくだけているから。」と云いました。

121
お母さんが泣きながらはこを出しました。玉はお日さまの光を受けてまるで天上に昇ってきそうに美しく燃えました。

122
お父さんは玉をホモイに渡してだまってしまいました。ホモイも玉を見ていつか涙を忘れてしまいました。

123
         ※

124
         ※

125
次の日ホモイはまた野原に出ました。

126
狐が走って来てすぐ角パンを三つ渡しました。ホモイはそれを急いで台所のたなの上にせて又野原に来ますと狐がまだ待ってて云いました。
「ホモイさん。何か面白おもしろいことをしようじゃありませんか。」

127
ホモイが「どんなこと?」とききますと狐が云いました。
「むぐらをばちにするのはどうです。あいつは実にこの野原のどくむしですぜ。そしてなまけものですぜ。あなたが一遍いつぺんゆるすって云ったのなら今日はわたしだけでひとつむぐらをいじめますからあなたはだまって見ておいでなさい。いいでしょう。」

128
ホモイは
「うん。どくむしなら少しいじめてもよかろう。」といました。

129
狐は、しばらくあちこち地面をいだり、とんとんふんでみたりしていましたが、とうとう一つの大きな石を起しました。するとその下にむぐらの親子が八疋かたまってぶるぶるふるえて居りました。狐が
「さあ、走れ、走らないと、み殺すぞ。」といって足をどんどんしました。 むぐらの親子は
「ごめん下さい、ごめん下さい。」といながら逃げようとするのですがみんな目が見えない上に足が利かないものですからただ草をくだけです。

130
一番小さな子はもう仰向あおむけけになって気絶きぜつしたようです。狐ははがみをしました。ホモイも思わず「シッシッ」と云って足を鳴らしました。その時、「こらっ何をする。」と云う大きな声がして、きつねがくるくる四遍しへんばかりまわってやがて一目散いちもくさんに逃げました。

131
見るとホモイのお父さんが来ているのです。

132
お父さんは、急いでむぐらをみんな穴に入れてやって、上へもとのように石をのせて、それからホモイの首すじをつかんで、ぐんぐんおうちへ引いてきました。

133
おっかさんが出て来て泣いておとうさんにすがりました。お父さんが云いました。
「ホモイ。お前はもう駄目だめだぞ。今日こそ貝の火は砕けたぞ。出して見ろ。」

134
お母さんが涙をふきながらはこを出して来ました。お父さんは凾のふたを開いて見ました。

135
するとお父さんはびっくりしてしまいました。貝の火が今日位美しいことはまだありませんでした。それはまるで赤や緑や青や様々の火がはげしく戦争をして、地雷火じらいかをかけたり、のろしを上げたり、またいなずまがひらめいたり、光の血が流れたり、そうかと思うと水色のほのおが玉の全体をパッと占領せんりようして、今度はひなげしの花や、黄色のチュウリップ、薔薇ばらやほたるかづらなどが、一面いちめんかぜにゆらいだりしているように見えるのです。

136
うさぎのお父さんはだまって玉をホモイに渡しました。ホモイは間もなく涙も忘れて貝の火をながめてよろこびました。

137
おっかさんもやっと安心して、おひるの支度したくをしました。

138
みんなはすわって角パンをべました。

139
お父さんが云いました。
「ホモイ。きつねには気をつけないといけないぞ。」

140
ホモイが申しました。
「お父さん。大丈夫ですよ。狐なんか何でもありませんよ。僕には貝の火があるのですもの。あの玉がくだけたりくもったりするもんですか。」

141
お母さんが申しました。
「本当にね、いい宝石いしだね。」

142
ホモイは得意とくいになって云いました。
「お母さん。僕はね、うまれつきあの貝の火とはなれないようになってるんですよ。たとえ僕がどんな事をしたってあの貝の火がどこかへ飛んでくなんてそんな事があるもんですか。それに僕毎日百ずつ息をかけてみがくんですもの。」
実際じつさいそうだといいがな。」とお父さんが申しました。

143
その晩ホモイは夢を見ました。高い高いきりのような山の頂上に片脚かたあしで立っているのです。

144
ホモイはびっくりして泣いて目をさましました。

145
            ※

146
            ※

147
次の朝ホモイはまた野に出ました。

148
今日は陰気いんききりがジメジメ降っています。木も草もじっとだまり込みました。ぶなの木さえ葉をちらっとも動かしません。

149
ただあのつりがねそうの朝のかねだけは高く高く空にひびきました。
「カンカンカンカエコカンコカンコカン。」

150
おしまいの音がカアンと向うから戻って来ました。

151
そして狐が角パンを三つ持って半ズボンをはいてやって来ました。
「狐。お早う。」とホモイが云いました。

152
狐はいやな笑いようをしながら
「いや、昨日きのうはびっくりしましたぜ。ホモイさんのお父さんも随分ずいぶん頑固がんこですな。しかしどうです。すぐご機嫌きげんが直ったでしょう。今日は一つうんと面白いことをやりましょう。動物園どうぶつえんをあなたはきらいですか。」と云いました。

153
ホモイが
「うん。嫌いではない。」と申しました。

154
狐がふところから小さなあみを出しました。そして
「そら、こいつをかけて置くととんぼでもはちでもすずめでもかけすでも、もっと大きなやつでもひっかかりますぜ。それを集めて一つ動物園をやろうじゃありませんか。」と云いました。

155
ホモイは一寸ちよつとその動物園の景色けしきを考えて見てたまらなく面白くなりました。そこで
「やろう。けれども、大丈夫そのあみでとれるかい。」と云いました。

156
狐がいかにもおかしそうにして
「大丈夫ですとも。あなたは早くパンを置いておいでなさい。そのうちに私はもう百位は集めて置きますから。」と云いました。

157
ホモイは、急いで角パンを取っておうちに帰って、台所の棚の上にせて、又急いで帰って来ました。

158
見るともう狐はきりの中のかばの木に、すっかり網をかけて、口を大きくあけて笑っていました。
「はははは、ごらんなさい。もう四疋しひきつかまりましたよ。」

159
狐はどこから持って来たか大きな硝子箱ガラスばこを指さして云いました。

160
本統ほんとうにその中にはかけすとうぐいすと紅雀とひわと四疋しひき入ってばたばたして居りました。

161
けれどもホモイの顔を見ると、みんな急に安心したように静まりました。

162
鶯が硝子越がらすごしに申しました。
「ホモイさん。どうかあなたのお力で助けてやって下さい。わたしらは狐につかまったのです。あしたはきっと食われます。お願いでございます。ホモイさん。」ホモイはすぐ箱を開こうとしました。

163
すると、狐がひたいに黒いしわをよせて、眼をり上げてどなりました。
「ホモイ。気をつけろ。その箱に手でもかけて見ろ。食い殺すぞ。泥棒どろぼうめ。」

164
まるで口が横にけそうです。

165
ホモイはこわくなってしまって、一目散いちもくさんにおうちへ帰りました。今日はおっかさんも野原に出て、うちに居ませんでした。

166
ホモイはあまり胸がどきどきするのであの貝の火を見ようとはこを出してふたを開きました。

167
それはやはり火のように燃えて居りました。

168
けれども気のせいか、一所ひとところ小さな小さな針でついた位の白い曇りが見えるのです。

169
ホモイはどうもそれが気になって仕方ありませんでした。そこでいつものように、フッフッと息をかけて、紅雀べにすずめ胸毛むなげで上をかろくこすりました。

170
けれども、どうもそれがとれないのです。その時、お父さんが帰って来ました。そしてホモイの顔色の変っているのを見て云いました。
「ホモイ。貝の火が曇ったのか。大変お前の顔色が悪いよ。どれお見せ。」そして玉をすかして見て笑って云いました。
「なあに、すぐれるよ。黄色の火なんかかえって今までより余計燃えている位だ。どれ。紅雀の毛を少しおれ。」そしてお父さんは熱心にみがきはじめました。けれどもどうも曇りがとれるどころか段々大きくなるらしいのです。

171
お母さんが帰って参りました。そしてだまってお父さんから貝の火を受け取ってすかして見てため息をついて今度は自分で息をかけてみがきました。

172
実にみんな、だまってため息ばかりつきながら、かわがわる一生けん命みがいたのです。

173
もう夕方になりました。お父さんはにわかに気がついたように立ちあがって、
「まあご飯を食べよう。今夜一晩あぶらけて置いて見ろ。それが一番いいという話だ。」といいました。お母さんはびっくりして
「まあ、ご飯の支度したくを忘れていた。なんにもこさえてない。一昨日おとといのすずらんの実と今朝の角パンだけを喰べましょうか。」と云いました。
「うんそれでいいさ」とおとうさんが云いました。ホモイはため息をついて玉をはこに入れてじっとそれを見詰めました。

174
みんなはだまってご飯をすましました。

175
お父さんは
「どれ油を出してやるかな」と云いながらたなからかやのあぶらびんをおろしました。

176
ホモイはそれを受けとって貝の火を入れた凾にそそぎました。そしてあかりをけしてみんな早くからねてしまいました。

177
          ※

178
          ※

179
夜中にホモイはをさましました。

180
そしてこわごわ起きあがってそっとまくらもとの貝の火を見ました。貝の火は、油の中でさかなの眼玉のように銀色に光っています。もう赤い火は燃えていませんでした。

181
ホモイは大声で泣き出しました。

182
うさぎのお父さんやお母さんがびっくりして起きてあかりをつけました。

183
貝の火はまるでなまりの玉のようになっています。ホモイは泣きながらきつねあみのはなしをお父さんにしました。

184
お父さんは大変あわてて急いで着物をきかえながら云いました。
「ホモイ。お前は馬鹿ばかだぞ。おれも馬鹿だった。お前はひばりの子供の命を助けてあの玉をもらったのじゃないか。それをお前は一昨日おとといなんか生れつきだなんて云っていた。さあ野原へ行こう。狐がまだ網を張ってるかもしれない。お前はいのちがけで狐とたたかうんだぞ。勿論もちろんおれも手伝う。」

185
ホモイは泣いて立ちあがりました。兎のお母さんも泣いて二人の後を追いました。

186
きりがポシャポシャ降って、もう夜があけかかっています。

187
狐はまだ網をかけて、かばの木の下に居ました。そして三人を見て口を曲げて大声でわらいました。ホモイのお父さんがさけびました。
「狐。お前はよくもホモイをだましたな。さあ決闘けつとうをしろ。」

188
狐が実に悪党あくとうらしい顔をして云いました。
「へん。貴様きさまら三疋ばかり食い殺してやってもいいが、俺もけがでもするとつまらないや。おれはもっといい食べものがあるんだ。」

189
そしてはこをかついで逃げ出そうとしました。
「待てこら。」とホモイのお父さんがガラスの箱を押えたので狐はよろよろしてとうとう凾を置いたまま逃げて行ってしまいました。

190
見ると箱の中に鳥が百疋ばかり、みんな泣いていました。すずめやかけすやうぐいすは勿論もちろん、大きな大きなふくろうや、それにひばりの親子までがはいっているのです。

191
ホモイのお父さんはふたをあけました。

192
鳥がみんな飛び出して地面に手をついて声をそろえて云いました。
「ありがとうございます。ほんとうに度々おかげ様でございます。」するとホモイのお父さんが申しました。
「どういたしまして、私共は面目めんぼく次第しだいもございません。あなた方の王さまからいただいた玉をとうとうくもらしてしまったのです。」

193
鳥が一遍いつぺんに云いました。
「まあどうしたのでしょう。どうか一寸ちよつと拝見いたしたいものです。」
「さあどうぞ」と云いながらホモイのお父さんはみんなをおうちの方へ案内しました。鳥はぞろぞろついてきました。ホモイはみんなのあとを泣きながらしょんぼりついて行きました。ふくろう大股おおまたにのっそのっそと歩きながら時々こわい眼をしてホモイをふりかえって見ました。

194
みんなはおうちに入りました。

195
鳥は、ゆかやたなや机やうち中のあらゆる場所をふさぎました。梟が目玉を途方とほうもない方に向けながら、しきりに「オホン、オホン」とせきばらいをします。

196
ホモイのお父さんがただの白い石になってしまった貝の火を取りあげて、
「もうこんな工合ぐあいです。どうか沢山たくさん笑ってやって下さい。」と云うとたん、貝の火はするどくカチッと鳴って二つに割れました。

197
と思うと、パチパチパチッとはげしい音がして見る見るまるでけむりのようにくだけました。

198
ホモイが入口いりぐちでアッと云ってたおれました。目にそのこなが入ったのです。みんなはおどろいてそっちへこうとしますと今度はそこらにピチピチピチと音がして煙がだんだん集まり、やがて立派ないくつかのかけらになり、おしまいにカタッと二つかけらが組み合って、すっかり昔の貝の火になりました。玉はまるで噴火ふんかのように燃え、夕日のようにかがやき、ヒューと音を立てて窓から外の方へ飛んできました。

199
鳥はみなきようをさまして、一人去り二人去り今はふくろうだけになりました。ふくろうはじろじろへやの中を見まわしながら
「たった六日むいかだったな。ホッホ

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たった六日だったな。ホッホ。」とあざ笑って肩をゆすぶって大股おおまたに出てきました。

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それにホモイの目は、もうさっきの玉のように白くにごってしまって、まったく物が見えなくなったのです。

202
はじめからおしまいまでお母さんは泣いてばかり居ました。お父さんがうでを組んでじっと考えていましたがやがてホモイのせなかを静かにたたいて云いました。
「泣くな。こんなことはどこにもあるのだ。それをよくわかったお前は、一番さいわいなのだ。目はきっとまたよくなる。お父さんがよくしてやるから。な。泣くな。」

203
窓の外では霧が晴れて鈴蘭の葉がきらきら光り、つりがねそうは
「カン、カン、カンカエコカンコカンコカン。」と朝のかねを高く鳴らしました。




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