イーハトーブのフクロウたち

平成13年11月  里実福太朗
カット    守 ゆう子


宮澤賢治の童話には、フクロウがよく登場します。「ふくろう共和国」としては、やはり調査をしてみなければならないでしょうと思いまして、そこでどのくらい登場するのか一生けん命調べてみました。
イーハトーブにはあちこちそれこそたくさんのフクロウがいたのでしょう、10作品、71箇所で見つかりました。
フクロウが出てくる作品・登場部分を載せておきます。その作品のどの部分に登場するのかさがしてみてはいかがでしょうか。


1.貝の火

●見ると箱の中に鳥が百疋ばかり、みんな泣いていました。すずめやかけすやうぐいすは勿論もちろん、大きな大きなふくろうや、それにひばりの親子までがはいっているのです。

●「さあどうぞ」と云いながらホモイのお父さんはみんなをおうちの方へ案内しました。鳥はぞろぞろついてきました。ホモイはみんなのあとを泣きながらしょんぼりついて行きました。ふくろう大股おおまたにのっそのっそと歩きながら時々こわい眼をしてホモイをふりかえって見ました。

●鳥はみなきようをさまして、一人去り二人去り今はふくろうだけになりました。ふくろうはじろじろへやの中を見まわしながら

●鳥はみなきようをさまして、一人去り二人去り今はふくろうだけになりました。ふくろうはじろじろへやの中を見まわしながら



2.かしわばやしの夜

●おほん、おほん、」とたくさんのふくろうどもが、お月さまのあかりに青じろくはねをひるがえしながら、するするするする出てきて、柏の木の頭の上や手の上、肩やむねにいちめんにとまりました。

立派りつぱな金モールをつけたふくろうの大将が、上手じようずに音もたてないで飛んできて、柏の木大王の前に出ました。そのまっ赤な眼のくまが、じつに奇体きたいに見えました。よほど年老としよりらしいのでした。

●「されば、」ふくろうの大将はみんなの方に向いてまるで黒砂糖くろざとうのようなあまったるい声でうたいました。

●そのくらやみはふくろうの

●ふくろうどもはもうみんなばかのようになってどなりました。

●「どうもきみたちのうたは下等かとうじゃ。君子くんしのきくべきものではない。」ふくろうの大将はへんな顔をしてしまいました。すると赤と白のじゆをかけたふくろうの副官ふくかんが笑って云いました。

●「どうもきみたちのうたは下等かとうじゃ。君子くんしのきくべきものではない。」ふくろうの大将はへんな顔をしてしまいました。すると赤と白のじゆをかけたふくろうの副官ふくかんが笑って云いました。

●かしわの木は両手をあげてそりかえったり、頭や足をまるで天上に投げあげるようにしたり、一生けん命踊りました。それにあわせてふくろうどもは、さっさっと銀いろのはねを、ひらいたりとじたりしました。じつにそれがうまく合ったのでした。月の光は真珠しんじゆのように、すこしおぼろになり、柏の木大王もよろこんですぐうたいました。

●「あっだめだ、きりが落ちてきた。」とふくろうの副官が高く叫びました。

●霧の中を飛ぶ術のまだできていないふくろうの、ばたばたげて行く音がしました。



3.気のいい火山弾

●「ベゴさん。こんちは。ゆうべは、ふくろうがお前さんに、とうがらしを持って来てやったかい。」

●「いいや。ふくろうは、昨夜ゆうべ、こっちへ来なかったようだよ。」



4.銀河鉄道の夜

●ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまのあかりや木のえだで、すっかりきれいにかざられたまちを通って行きました。時計屋とけいやの店には明るくネオンとうがついて、一秒いちびようごとに石でこさえたふくろうの赤い眼が、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石ほうせきが海のような色をしたあつ硝子ガラスばんって星のようにゆっくりめぐったり、また向う側から、どう人馬じんばがゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。そのまん中に円い黒い星座早見せいざはやみが青いアスパラガスの葉でかざってありました。



5.毒蛾

●なるほど、そう云って出て行く給仕を見ますと、首にまるで石のをはめたような厚い繃帯ほうたいをして、顔もだいぶはれていましたからきっと、その毒蛾にまれたんだと、私は思いました。ところが、間もなくとなりりの室で、給仕が客と何かあらそっているようでした。それが仲々長いし烈しいのです。私は暑いやら疲れたやら、すっかりむしゃくしゃしてしまいましたので、今のうち一寸ちよつと床屋とこやへでも行って来ようと思って室を出ました。そしてとなりの室の前を通りかかりましたら、扉が開け放してあって、さっきの給仕がひどく悄気しよげて頭をれて立っていました。向うには、かみもひげもまるで灰いろの、肥ったふくろうのようなおじいさんが、安楽あんらく椅子いすにぐったりこしかけて、扇風機せんぷうきにぶうぶう吹かれながら、



6.二十六夜

にわかに声が絶え、林の中はしぃんとなりました。ただかすかなかすかなすすり泣きの声が、あちこちに聞えるばかり、たしかにそれはふくろうのおきようだったのです。

●林はまたしずまりかえりました。よくよくこずえをすかして見ましたら、やっぱりそれはふくろうでした。一ぴきの大きなのは、林の中の一番高い松の木の、一番高い枝にとまり、そのまわりの木のあちこちの枝には、大きなのや小さいのや、もうたくさんのふくろうが、じっととまってだまっていました。ほんのときどき、かすかなかすかなため息の音や、すすり泣きの声がするばかりです。 

●林はまたしずまりかえりました。よくよくこずえをすかして見ましたら、やっぱりそれはふくろうでした。一ぴきの大きなのは、林の中の一番高い松の木の、一番高い枝にとまり、そのまわりの木のあちこちの枝には、大きなのや小さいのや、もうたくさんのふくろうが、じっととまってだまっていました。ほんのときどき、かすかなかすかなため息の音や、すすり泣きの声がするばかりです。 

●いちばん高い木の黒い影が、ばたばた鳴って向うの低い木の方へ移ったようでした。やっぱりふくろうだったのです。

●そのとき、黒い東の山脈の上に何かちらっと黄いろなとがった変なかたちのものがあらわれました。梟どもは俄にざわっとしました。二十四日の黄金の角、かまの形の月だったのです。たちまちすうっと昇ってしまいました。沼の底の光のようなおぼろな青いあかりがぼおっと林の高いこずえにそそぎ一ぴきの大きなふくろうはねをひるがえしているのもひらひら銀いろに見えました。さっきの説教の松の木のまわりになった六本にはどれにも四疋から八疋ぐらいまで梟がとまっていました。低く出た三本のならんだ枝に三びきの子供の梟がとまっていました。きっと兄弟だったでしょうがどれも銀いろで大さはみな同じでした。その中でこちらの二ひきは大分きているようでした。片っ方のはねをひらいたり、片脚かたあしでぶるぶる立ったり、枝へ爪を引っかけてくるっと逆さになって小笠原おがさわら島のこうもりのまねをしたりしていました。

●「そら。」その小さな子供のふくろうはほんの一寸ちよつとの間、消防しようぼうのやるような逆さ大の字をやりました。

●「おい、おとなしくしろ。みんなに笑われるぞ。」すぐ上の枝にたお父さんのふくろうがその大きなぎらぎら青びかりする眼でこっちを見ながら云いました。眼のまわりの赤いくまもはっきり見えました。

●おっかさんのふくろうらしいさっきのお父さんのとならんでいた茶いろの少し小型のがすうっと下へおりて行きました。それから下の方で泣声が起りました。けれども間もなくおっかさんの梟はもとの処へとびあがり小さな二疋ものぼって来て二疋とももとのところへとまって片脚かたあしで眼をこすりました。お母さんの梟がも一度しかりました。その眼も青くぎらぎらしました。

●その木の一番高い枝にとまりからだ中銀いろで大きくほおをふくらせ今の講義のやすみのひまを水銀のような月光をあびてゆらりゆらりといねむりしているのはたしかにふくろうのおじいさんでした。

かくの如きの諸の悪業あくごうげて数うるなし。悪業を以ての故に、更に又諸の悪業を作る。継起けいきしてついおわることなし。昼はすなわち日光をおそれ、又人及諸の強鳥を恐る。心暫らくも安らかなることなし、一度梟身ひとたびきようしんを尽して、又あらたに梟身をつまびらかに諸の苦患くげんを被りて又尽くることなし。で前の座では、捨身しやしん菩薩ぼさつ疾翔大力シツシヨウタイリキと呼びあげるわけあい又、その願成の因縁いんねんをお話いたしたじゃが、次に爾迦夷ルカイに告げて曰くとある。爾迦夷ルカイというはこのとき我等と同様ふくろうじゃ。われらのご先祖と、一諸におすまいなされたお方じゃ。今でも爾迦夷上人ルカイしようにんと申しあげて、毎月十三日がご命日じゃ。いずれの家でも、梟の限りは、十三日にはならの木の葉をまいて、爾迦夷上人さまにさしあげるということをやるじゃ、これは爾迦夷さまが楢の木におすまいなされたからじゃ。この爾迦夷さまは、早くから梟の身のあさましいことをご覚悟遊かくごあそばされ、出離しゆつりの道を求められたじゃげなが、とうとうその一心の甲斐かいあって、疾翔大力さまにめぐりあい、ついにそのとうとい教を聴聞ちようもんあって、天上へ行かしゃれた。その爾迦夷さまへのご説法じゃ。あきらかに聴け、諦に聴け。く之を思念せよと。心をしずめてよく聴けよ、心をしずめてよく聴けよとうじゃ。いずれの説法の座でも、よくよく心をしずめ耳をすま

●ところがこのとき、さっきの喧嘩けんかをした二ひきの子供のふくろうがもう説教をくのはきてお互にらめくらをはじめていました。そこはしげりあった枝のかげで、まっくらでしたが、二疋はどっちもあらんかぎりりんと眼を開いていましたので、ぎろぎろりんを燃したように青く光りました。そこでとうとう二疋とも一ぺんにき出して一諸いつしよに、

●その声はさいわいに少しつんぼのふくろうの坊さんには聞えませんでしたが、ほかの梟たちはみんなこっちを振り向きました。兄弟の穂吉ほきちという梟は、そこで大へんきまり悪く思ってもじもじしながら頭だけはじっと垂れていました。二ひきはみんなのこっちを見るのを枝のかげになってかくれるようにしながら、

●丁度ゆうべと同じ時刻じこくでしたのに、説教はまだ始まらず、あの説教の坊さんは、つむってだまって説教の木の高い枝にとまり、まわりにゆうべと同じにとまった沢山のふくろうどもはなぜか大へんみな興奮こうふんしている模様でした。女のふくろうにはおろおろ泣いているのもありましたし、男のふくろうはもうとてもうしていられないというようにプリプリしていました。それにあのゆうべの三人兄弟の家族の中では一番高いところに居るおじいさんのふくろうはもうすっかり眼を泣きはらしてほおが時々びくびく云い、なみだは声なくその赤くふくれた眼から落ちていました。

●丁度ゆうべと同じ時刻じこくでしたのに、説教はまだ始まらず、あの説教の坊さんは、つむってだまって説教の木の高い枝にとまり、まわりにゆうべと同じにとまった沢山のふくろうどもはなぜか大へんみな興奮こうふんしている模様でした。女のふくろうにはおろおろ泣いているのもありましたし、男のふくろうはもうとてもうしていられないというようにプリプリしていました。それにあのゆうべの三人兄弟の家族の中では一番高いところに居るおじいさんのふくろうはもうすっかり眼を泣きはらしてほおが時々びくびく云い、なみだは声なくその赤くふくれた眼から落ちていました。

●丁度ゆうべと同じ時刻じこくでしたのに、説教はまだ始まらず、あの説教の坊さんは、つむってだまって説教の木の高い枝にとまり、まわりにゆうべと同じにとまった沢山のふくろうどもはなぜか大へんみな興奮こうふんしている模様でした。女のふくろうにはおろおろ泣いているのもありましたし、男のふくろうはもうとてもうしていられないというようにプリプリしていました。それにあのゆうべの三人兄弟の家族の中では一番高いところに居るおじいさんのふくろうはもうすっかり眼を泣きはらしてほおが時々びくびく云い、なみだは声なくその赤くふくれた眼から落ちていました。

●丁度ゆうべと同じ時刻じこくでしたのに、説教はまだ始まらず、あの説教の坊さんは、つむってだまって説教の木の高い枝にとまり、まわりにゆうべと同じにとまった沢山のふくろうどもはなぜか大へんみな興奮こうふんしている模様でした。女のふくろうにはおろおろ泣いているのもありましたし、男のふくろうはもうとてもうしていられないというようにプリプリしていました。それにあのゆうべの三人兄弟の家族の中では一番高いところに居るおじいさんのふくろうはもうすっかり眼を泣きはらしてほおが時々びくびく云い、なみだは声なくその赤くふくれた眼から落ちていました。

●もちろんふくろうのお母さんはしくしくしくしく泣いていました。乱暴らんぼうものの二ひきの兄弟も不思議にその晩はきちんと座って、大きな眼をじっと下に落していました。又ふくろうのお父さんは、しきりに西の方を見ていました。けれども一体どうしたのかあの温和おとなしい穂吉ほきちの形が見えませんでした。風が少し出て来ましたので松の梢はみなしずかにゆすれました。

●もちろんふくろうのお母さんはしくしくしくしく泣いていました。乱暴らんぼうものの二ひきの兄弟も不思議にその晩はきちんと座って、大きな眼をじっと下に落していました。又ふくろうのお父さんは、しきりに西の方を見ていました。けれども一体どうしたのかあの温和おとなしい穂吉ほきちの形が見えませんでした。風が少し出て来ましたので松の梢はみなしずかにゆすれました。

にわかに西の方から一ぴきの大きな褐色かつしよくふくろうが飛んで来ました。そしてみんなの入口の低い木にとまって声をひそめて云いました。

●穂吉のお母さんの梟は、まるで火がついたように声をあげて泣きました。それにつれて林中の女のふくろうがみなしいんしいんと泣きました。

●林はまたしいんとなりました。しばらくたって、またばたばたと一ぴきふくろうが飛んで戻って参りました。

●林中の女のふくろうがまるで口口に答えました。その音は二町ばかり西の方の大きな藁屋根わらやねの中に捕われている穂吉の処まで、ほんのかすかにでしたけれども聞えたのです。

●ふくろうのおじいさんが度々たびたび声がかすれながらふくろうのお父さんに云いました。

●ふくろうのおじいさんが度々たびたび声がかすれながらふくろうのお父さんに云いました。

ふくろうのお父さんは、首を垂れてだまって聴いていました。梟の和尚おしようさんも遠くからこれにできるだけ耳を傾けていましたが大体そのわけがわかったらしく言いえました。

ふくろうのお母さんが、泣きむせびながら申しました。

●で前のばんは、諸鳥歓喜充満しよちようかんきじゆうまんせりまで、もんの如くにこうじたが、此の席はその次じゃ。すなわち説いて曰くと、これは疾翔大力シツシヨウタイリキさまが、爾迦夷上人ルカイしようにんのご懇請こんせいによって、直ちに説法をなされたとうじゃ。汝等審なんじらつまびらかに諸の悪業を作ると。汝等というは、元来がんらいはわれわれふくろうとびなどに対して申さるるのじゃが、ご本意は梟にあるのじゃ、あとのごもん罪相ざいそうを拝するに、みなわれわれのことじゃ。悪業あくごうというは、悪は悪いじゃ、業とは梵語ぼんごでカルマというて、すべて過去になしたることのまだ報となってあらわれぬ業という、善業悪業あるじゃ。ここでは悪業という。その事柄ことがらを次にあげなされたじゃ。あるい夜陰やいんを以て、小禽しようきんの家に至ると。みなの衆、他人事ではないぞよ。よくよく自らの胸にたずねて見なされ。夜陰とは夜のくらやみじゃ。以てとは、これは乗じてというがようの意味じゃ。夜のくらやみに乗じてと、斯うじゃ。小禽の家に至る。小禽とは、雀、山雀やまがら四十雀しじゆうから、ひわ、百舌もず、みそさざい、かけす、つぐみ、すべて形小にして、力ないものは、みな小禽しようきんじゃ。その形小さく力無い鳥の家に参るというのじゃが、参るというてもただ訪ねて参るでもなければ、遊びに参るでもないじゃ、内に深く残忍ざんにんの想をひそめ、外又恐るべく悲しむべき夜叉相やしやそうを浮べ、ひそやかに忍んで参ると斯う云うことじゃ。このご説法のころは、われらの心もいま仲々なかなかふくろうの坊さんはしばらくゴホゴホ咳嗽せきをしていましたが、やっと心を取り直して、又講義こうぎをつづけました。

●風がザアッとやって来ました。木はみな波のようにゆすれ、坊さんのふくろうも、その中にただよう舟のようにうごきました。

獅子鼻ししばなの上の松林まつばやしには今夜もふくろうむれが集まりました。今夜は穂吉が来ていました。来てはいましたが一昨日おとといの晩のところにでなしに、おじいさんのとまる処よりももっと高いところで小さな枝の二本行きちがい、それからもっと小さな枝が四五本出て、一寸さかずきのような形になった処へ、どこから持って来たか藁屑わらくずかみの毛などをいて臨時りんじがつくられていました。その中に穂吉ほきちが半分横になって、じっと目をつぶっていました。梟のお母さんと二人の兄弟とが穂吉のまわりに座って、穂吉のからだを支えるようにしていました。林中のふくろうは、今夜は一人も泣いてはいませんでしたがおこっていることはみんな、昨夜処ではありませんでした。

獅子鼻ししばなの上の松林まつばやしには今夜もふくろうむれが集まりました。今夜は穂吉が来ていました。来てはいましたが一昨日おとといの晩のところにでなしに、おじいさんのとまる処よりももっと高いところで小さな枝の二本行きちがい、それからもっと小さな枝が四五本出て、一寸さかずきのような形になった処へ、どこから持って来たか藁屑わらくずかみの毛などをいて臨時りんじがつくられていました。その中に穂吉ほきちが半分横になって、じっと目をつぶっていました。梟のお母さんと二人の兄弟とが穂吉のまわりに座って、穂吉のからだを支えるようにしていました。林中のふくろうは、今夜は一人も泣いてはいませんでしたがおこっていることはみんな、昨夜処ではありませんでした。

●「あんまりひどいやつらだ。こっちは何一つ向うの為に悪いようなことをしないんだ。それをこんなことをして、よこす。もうだまってはいられない。何かし返ししてやろう。」一ぴきの若いふくろうが高く云いました。すぐ隣のが答えました。

●けたたましくふくろうのお母さんが叫びました。

●「穂吉ほきち穂吉しっかりおし。」みんなびくっとしました。穂吉のお父さんもあわてて穂吉の居た枝に飛んで行きましたがとまる所がありませんでしたからすぐその上の枝にとまりました。穂吉のおじいさんも行きました。みんなもまわりに集りました。穂吉はどうしたのか折られた脚をぷるぷる云わせその眼は白く閉じたのです。お父さんのふくろうは高く叫びました。

ふくろうの坊さんは一寸声を切りました。今夜ももう一時の上りの汽車の音が聞えて来ました。その音を聞くと梟どもは泣きながらも、汽車の赤い明るいならんだ窓のことを考えるのでした。講釈こうしやくがまた始まりました。



7.林の底

●「黄金きんかま」が西のそらにかかって、風もないしずかなばんに、一ぴきのとしよりのふくろうが、林の中の低い松の枝から、う私に話しかけました。

ふくろうははじめ私が返事へんじをしだしたとき、こいつはうまく思うつぼにはまったぞというように、眼をすばやくぱちっとしましたが、私が三毛と云いましたら、にわかに機嫌きげんを悪くしました。

ふくろうはにが笑いをしてごまかそうとしました。

●(ああ、あのならの木の葉が光ってゆれた。ただ一枚だけどうしてゆれたろう。)私はまるで別のことを考えながらうふくろうに聴きました。ところが梟はよろこんでぼつぼつ話をつづけました。

●私はやっぱりとんびの染屋のことだったと思わず笑ってしまいました。それが少うしふくろう意外いがいなようでしたから、急いでそのあとへつけたしました。

ふくろうは少しあわてましたが、ちょっとうしろの林の奥の、くらいところをすかして見てから言いました。

ふくろうは話してしまって、しんと向ふのお月さまをふり向きました。

●私はう言いながらもう立ちあがりその水銀すいぎんいろの重い月光と、黒い木立のかげの中を、ふくろうとわかれて帰りました。



8.双子の星

●  夜鷹ふくろう、ちどり、かけす、



9.ポラーノの広場

●「するとお母さんが行っておいで、ふくろうにだまされないようにおしって云うんだ。」

●「お母さんがね、云っておいで、ふくろうにだまされないようにおしって云うんだよ。」

●「ふくろうに?」

●「うん、ふくろうにさ。それはね、僕もっと小さいとき、それはもうこんなに小さいときなんだ、野原に出たろう。すると遠くで、誰だか食べた、たれだか食べた、というものがあったんだ。それがふくろうだったのよ。僕ばかな小さいときだから、ずんずん行ったんだ。そして林の中へはいってみちがわからなくなって泣いた。それからいつでもお母さんそう云ったんだ。」

●「うん、ふくろうにさ。それはね、僕もっと小さいとき、それはもうこんなに小さいときなんだ、野原に出たろう。すると遠くで、誰だか食べた、たれだか食べた、というものがあったんだ。それがふくろうだったのよ。僕ばかな小さいときだから、ずんずん行ったんだ。そして林の中へはいってみちがわからなくなって泣いた。それからいつでもお母さんそう云ったんだ。」

●なるほど、そう云って出て行く給仕を見ますと、首にまるで石のをはめたような厚い繃帯ほうたいをして、顔もだいぶはれていましたからきっと、その毒蛾にまれたんだと、私は思いました。ところが、間もなく隣りの室で、給仕が客と何かい争っているようでした。それが仲々長いしはげしいのです。私は暑いやら疲れたやら、すっかりむしゃくしゃしてしまいましたので、今のうち一寸ちよつと床屋へでも行って来ようと思って室を出ました。そしてとなりの室の前を通りかかりましたら、が開け放してあって、さっきの給仕がひどく悄気しよげて頭を垂れて立っていました。向うには、髪もひげもまるで灰いろの、ふとったふくろうのようなおじいさんが、安楽椅子あんらくいすにぐったりこしかけて、扇風機にぶうぶう吹かれながら、



10.よく利く薬とえらい薬

の声を聞いて、ふくろうが木のほらの中で太い声で言いました。

●「いや、ふくろう、お早う。」と言いながら其処そこを通りすぎました。

●その声を聞いてふくろうが木の洞の中で太い声で云いました。




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